任意後見契約(移行型) / 基本
移行型任意後見契約の仕組み—委任契約から任意後見への切り替え方
移行型任意後見契約(委任契約及び任意後見契約)は、元気なうちの財産管理と判断能力低下後の後見を同じ受任者が切れ目なく担う方式です。2段階の構造、切り替えの手続き、弱点と対策を、公証役場とのやり取りを重ねてきた横浜の行政書士が整理します。
「移行型」は法律上の用語ではありませんが、任意後見の実務では最もよく使われる形です。日本公証人連合会も、委任契約と任意後見契約を同時に結ぶことが多く、この形を「移行型」と呼んでいると説明しています。当事務所で親子間の任意後見をお手伝いする場合も、多くはこの移行型です。
結論
- 移行型は、民法上の委任契約(財産管理等委任契約)と、任意後見契約に関する法律に基づく任意後見契約を、同じ日に同じ受任者と結ぶ方式です。
- 委任契約は契約した時から効力が生じ、任意後見契約は家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます(任意後見契約に関する法律 第2条第1号)。
- 監督人が選任されると委任契約は終わり、同じ受任者が任意後見人として支援を続けます。
- 最大の弱点は、委任契約の期間中に公的な監督がないことです。報告先の追加や、申立て義務の明記で手当てします。
2段階の構造
| 段階 | 根拠 | 効力が生じる時 | 監督 |
|---|---|---|---|
| 第1段階:委任契約 | 民法第643条以下(委任) | 契約を結んだ時 | ご本人(と、契約で定めた報告先) |
| 第2段階:任意後見契約 | 任意後見契約に関する法律 | 家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時 | 任意後見監督人、その先に家庭裁判所 |
任意後見契約は公正証書で結ばなければなりません(同法 第3条)。委任契約は法律上は公正証書でなくても成立しますが、移行型では1通の「委任契約及び任意後見契約公正証書」にまとめるのが通例です。公証人が2つの契約の整合を確認するため、切り替えの条件が明確になり、金融機関などに受任者の地位を示す際にも信用が得やすくなります。
任意後見契約の部分は、公証人の嘱託によって東京法務局で登記されます(公証人法 第51条)。委任契約の部分は登記されません。
委任契約の期間にできること
委任契約で受任者が代わりにできるのは、「委任契約の代理権目録」に書いた事務だけです。当事務所では、次のような今必要な事務に絞ることを基本にしています。
- 預貯金の入出金・振込、年金の受領
- 公共料金・医療費・介護サービス費などの支払い
- 住民票・介護保険・年金などの役所の手続き
- 要介護認定の申請や介護サービスの利用手続き
不動産の売却や株式の売買のように、元気なうちはご本人が判断すべき事務は、委任契約には入れず、任意後見契約の代理権目録にだけ入れる設計が一般的です。詳しくは代理権目録の作り方で説明しています。
任意後見への切り替えの手続き
- 判断能力の低下に気づく 受任者が日頃の事務の中で、支払いの管理が難しくなった、同じ話を繰り返すようになった、などの変化に気づきます。かかりつけ医やケアマネジャーからの情報も手がかりになります。
- 医師の診断書を取る 家庭裁判所の書式による診断書を依頼します。
- 任意後見監督人の選任を申し立てる 申立先は本人の住所地の家庭裁判所です。申し立てられるのは本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者で、本人以外が申し立てる場合は、本人が意思を表示できないときを除き、本人の同意が必要です(同法 第4条第1項・第3項)。
- 家庭裁判所の審理 申立人・受任者との面接や、必要に応じて医師の鑑定が行われます。
- 監督人の選任=切り替え 監督人が選任されると任意後見契約が効力を生じ、委任契約は契約の定めにより終了します。
申立ての費用は、申立手数料の収入印紙800円、登記手数料の収入印紙1,400円と郵便切手です。申立書類の作成や提出の代理は、裁判所に提出する書類にあたるため司法書士・弁護士の業務です。当事務所は連携する司法書士・弁護士と一緒に進めます。
移行型では、委任契約の期間中につけてきた収支の記録や報告書があるため、申立てに必要な財産目録や収支予定表を実績にもとづいて作れます。将来型に比べて準備の負担が軽いのも利点です。
移行型の弱点と、原案で入れる手当て
委任契約の期間は、任意後見監督人がまだいないため、受任者の事務をチェックする公的な仕組みがありません。判断能力が衰えても監督人選任を申し立てず、監督のない状態を続けてしまう「移行型の濫用」は、専門家の間でも以前から問題視されてきました。
当事務所では、原案に次の手当てを入れています。
| 手当て | 条項の内容 |
|---|---|
| 申立て義務 | ご本人の判断能力が不十分になったと認めたときは、受任者は速やかに任意後見監督人の選任を申し立てる |
| 報告先の追加 | 受任者は、ご本人に加えて、指定した家族(受任者にならない兄弟姉妹など)にも定期的に報告書の写しを送る |
| 範囲の限定 | 委任契約の代理権は、今必要な事務に絞る |
| 報告の中身 | 預貯金の残高の推移と入出金の明細が分かる形で報告する |
受任者がお子さまの場合、ここまで決めておくことで、受任者自身が兄弟姉妹から疑われる事態を防ぐことにもなります。
契約の解除・終了
任意後見監督人が選任される前であれば、ご本人・受任者のどちらからでも、公証人の認証を受けた書面によっていつでも任意後見契約を解除できます(同法 第9条第1項)。監督人の選任後は、正当な事由があり、家庭裁判所の許可を得た場合に限られます(同条第2項)。委任契約と任意後見契約は別の契約なので、委任契約だけを解除し、任意後見契約を将来型として残すこともできます。
ご本人が亡くなると、委任契約も任意後見契約も終了します。亡くなった後の手続きは、死後事務委任契約と遺言で備えます。
関連ページ
※このページは制度の概要をまとめたものです。個別の契約内容は、ご事情を伺ったうえで公証人と協議して決めます。
行政書士あおば行政法務事務所 齋藤光宏