任意後見契約(移行型) / 比較
任意後見と法定後見の違い—誰が後見人を選ぶか・何を任せられるか
任意後見と法定後見(後見・保佐・補助)を、始め方・後見人の選び方・権限・取消権・監督・費用の順に比較します。最高裁の統計では法定後見で親族が選ばれるのは約16.4%。家族に後見人を任せたい方が元気なうちに考えておくべきことを、横浜の行政書士が整理します。
成年後見制度には、ご本人が元気なうちに契約で備える「任意後見」と、判断能力が衰えた後に家庭裁判所が後見人等を選ぶ「法定後見」があります。どちらも判断能力が不十分な方を支える制度ですが、仕組みはかなり違います。
結論
- 最大の違いは、後見人を選ぶのが誰かです。任意後見はご本人、法定後見は家庭裁判所が選びます。
- 2025年に法定後見が始まった事件で、ご親族が後見人等に選ばれたのは約16.4%でした(最高裁判所の統計)。家族に任せたい方は、元気なうちに任意後見契約を結んでおくのが確実です。
- 任意後見人には取消権がありません。悪質商法の被害が心配な場合など、取消権が必要な事情があれば法定後見が選ばれることもあります。
- 任意後見契約が登記されていれば、法定後見は「本人の利益のため特に必要がある」場合に限って開始されます(任意後見契約に関する法律 第10条第1項)。
比較表
| 比較項目 | 任意後見 | 法定後見(後見・保佐・補助) |
|---|---|---|
| 根拠 | 任意後見契約に関する法律 | 民法 |
| 始め方 | ご本人が元気なうちに、公正証書で契約を結ぶ | 判断能力が衰えた後、本人・親族・市区町村長などが家庭裁判所に申し立てる |
| 後見人等を選ぶ人 | ご本人 | 家庭裁判所(候補者を推薦できるが拘束力はない) |
| 任せる範囲 | 契約の代理権目録に書いた事務 | 後見は財産に関する法律行為全般。保佐・補助は審判で定めた範囲 |
| 取消権 | なし | あり(ご本人がした一定の行為を取り消せる) |
| 効力の発生 | 家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時 | 家庭裁判所の審判の確定 |
| 監督 | 任意後見監督人(必ず選任される) | 家庭裁判所(必要に応じて監督人) |
| 報酬 | 任意後見人は契約で決める(無報酬も可)。監督人は家庭裁判所が決める | 家庭裁判所が決める |
後見人を「選べる」ことの意味
法定後見の申立てでは、申立人が後見人等の候補者を書くことができます。ただし誰を選ぶかは家庭裁判所が判断します。最高裁判所の「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」によると、法定後見が始まった事件でご親族が選ばれた割合は約16.4%、親族以外(弁護士・司法書士・社会福祉士など)が約83.6%でした。
親族以外の専門職が後見人になると、ご本人の財産から報酬が支払われ続けます。また、ご家族から見ると、それまで家族で管理してきた通帳を専門職に引き渡すことになります。これを望まない方にとって、任意後見は「元気なうちにしか選べない」重要な選択肢です。
財産の使い方の違い
法定後見人は、ご本人の財産を守ることが最優先です。東京家庭裁判所の成年後見人向けハンドブックは、ご本人の財産を家族に贈与することは、税法上の優遇措置があっても原則として認められず、相続税対策を目的とする贈与も同様だとしています。株式や投資信託などの元本保証のない運用も避けるよう求めています。居住用の不動産を売ったり貸したりするには、家庭裁判所の許可が必要です(民法 第859条の3)。
任意後見人も、ご本人のために財産を管理する立場であり、任意後見監督人のチェックを受けます。ご家族の相続税対策や、不動産の積極的な活用・組み替えまで見込むなら、家族信託との組み合わせを検討します。
取消権がないことへの備え
法定後見では、ご本人が結んだ不利な契約を後見人等が取り消せる場合があります。任意後見人にはこの取消権がありません。任意後見契約が発効した後に、訪問販売などの被害が繰り返されるようなら、任意後見人や監督人が法定後見の申立てを検討することになります(任意後見契約に関する法律 第10条第2項)。なお消費者契約法やクーリング・オフなど、取消権とは別の救済手段もあります。
2026年改正後の見通し
2026年6月に成立した改正法(令和8年法律第45号)により、法定後見は「補助」に一本化され、必要な期間・必要な範囲で利用するしくみに変わります。任意後見についても、補助の利用が始まっても任意後見契約が存続できるようになるなど、両者を組み合わせやすくする見直しが行われます。施行は公布(2026年6月24日)から2年6か月以内に政令で定める日で、それまでは現行制度で手続きします。
制度が変わっても、「ご本人が元気なうちに、信頼できる人を自分で選んでおく」という任意後見の価値は変わりません。
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※法定後見の申立書類の作成・申立ての代理は、司法書士・弁護士の業務です。当事務所は制度のご説明と任意後見契約の原案作成を担当し、法定後見が必要な場合は連携する専門家をご紹介します。
行政書士あおば行政法務事務所 齋藤光宏