任意後見契約(移行型) / 設計
代理権目録の作り方—委任契約と任意後見契約で範囲を分ける
任意後見契約で任意後見人ができることは、代理権目録に書いた事務に限られます。法務省令の2つの様式(チェック方式・記述方式)、移行型で委任契約と任意後見契約の範囲を分ける考え方、入れ忘れやすい事務、不動産の処分に同意を条件とする設計を、横浜の行政書士が解説します。
任意後見人は、ご本人の代理人として何でもできるわけではありません。できるのは、契約で委託し、代理権を与えた事務だけです(任意後見契約に関する法律 第2条第1号)。その範囲を一覧にしたものが「代理権目録」です。原案づくりで最も時間をかけるのがこの部分です。
結論
- 代理権目録は、法務省令で定める様式で作ります。項目にチェックを入れる「附録第1号様式」と、文章で書く「附録第2号様式」があります。
- 移行型では、委任契約(監督なし)の代理権は今必要な事務に絞り、任意後見契約(監督あり)の代理権は将来必要になりそうな事務まで広げます。
- 判断能力が衰えた後に代理権を追加することはできません。入れ忘れがないよう、将来の生活を具体的に想像しながら作ります。
2つの様式
任意後見契約の公正証書では、任意後見人が代理権を行う事務の範囲を、省令の附録第1号様式または附録第2号様式による用紙に特定して記載します。
| 様式 | 書き方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 附録第1号様式 | 用意された項目に印をつけ、不要な項目は消す | 標準的な事務を網羅的に選びたいとき |
| 附録第2号様式 | 事務の範囲を文章で記載する | 第1号様式にない事務を入れたい、表現を調整したいとき |
どちらを使うかは、公証人との調整の中で決まります。移行型の委任契約の部分は任意後見契約ではないため、この様式の制約は受けませんが、実務では任意後見契約と対比しやすい形で作ります。
移行型の基本設計:「委任は狭く、後見は広く」
| 事務の内容 | 委任契約 | 任意後見契約 | 設計のポイント |
|---|---|---|---|
| 預貯金の入出金・振込 | ○ | ○ | 両方に入れる基本の事務 |
| 年金の受領・公共料金などの支払い | ○ | ○ | 両方に入れる |
| 住民票・戸籍・税や社会保険の証明書の請求 | ○ | ○ | 両方に入れる |
| 要介護認定の申請・介護サービスの契約 | △ | ○ | 委任では申請や支払い中心、後見では契約の締結・変更・解除まで |
| 医療機関との契約・医療費の支払い | △ | ○ | 医療行為への同意そのものは代理権の対象にならないと解されている |
| 施設への入所契約 | × | ○ | 入所予定がある場合は委任にも入れる |
| 自宅など不動産の管理 | △ | ○ | 委任では現状を保つ管理に限る |
| 自宅など不動産の売却・賃貸・担保設定 | × | ○ | 監督人の書面による同意を条件にする設計がある |
| 株式・投資信託・保険の解約や変更 | × | ○ | 元気なうちはご本人が判断する |
| 遺産分割協議・相続放棄 | × | ○ | 配偶者が先に亡くなった場合に必要になる |
| 税務申告・税理士への依頼 | × | ○ | 確定申告が必要な方は忘れずに |
| 登記の申請の依頼 | × | ○ | 司法書士への依頼を含む |
○=含める / △=限定して含める / ×=含めないことが多い
委任契約の範囲を狭くするのは、委任契約の期間には任意後見監督人による監督がないためです。不必要に広い代理権は、ご本人に意思確認をしないまま重要な財産が動かされるおそれを高めます。
入れ忘れやすい事務
判断能力が衰えた後は、新しい契約を結ぶことも、代理権を追加することもできません。ご相談の場では、次のような事務が見落とされていないかを一つずつ確認します。
- 配偶者の相続手続き ご本人が相続人になったときの遺産分割協議
- 貸金庫 貸金庫の開閉や解約
- デジタル関係 ネット銀行・証券口座、スマートフォンや各種サービスの契約・解約
- 自宅の修繕・リフォーム バリアフリー工事の請負契約
- ペット 施設入所後の飼育の委託
- 賃貸物件の管理 入居者との契約更新や管理会社との契約
不動産の処分に条件をつける
自宅の売却はご本人の生活の基盤に関わるため、任意後見契約の代理権には入れつつ、「任意後見監督人の書面による同意を得なければならない」といった条件をつける設計があります。ご本人・ご家族の安心感が高まる一方、手続きに時間がかかるようになるため、どこまで条件をつけるかはご家族と相談して決めます。
売却や建替えを見込んで財産を積極的に動かしたい場合は、任意後見ではなく家族信託の方が合うこともあります。
代理権の範囲を後で変えたいとき
任意後見契約の代理権の範囲を変えるには、新たに契約を結び直すのが一般的です。任意後見監督人が選任される前であれば、公証人の認証を受けた書面によって契約を解除できます(同法 第9条第1項)。2026年6月に成立した改正法では任意後見契約の一部解除のしくみも設けられましたが、施行までは現行の取扱いによります。
関連ページ
※代理権目録の具体的な文言は、公証人との協議で最終的に決まります。
行政書士あおば行政法務事務所 齋藤光宏