家族信託 / 比較
家族信託と任意後見・法定後見の違い—組み合わせて使う理由
家族信託と任意後見・法定後見は、どちらか一方を選ぶものではなく役割分担で考えます。財産を積極的に動かせるか、身の回りの契約ができるか、家庭裁判所の関与、亡くなった後の財産の行き先の4点で比較し、組み合わせの典型例を横浜の行政書士が解説します。
「家族信託と任意後見、どちらがよいのですか」というご質問をよくいただきます。答えは多くの場合「役割が違うので、両方を組み合わせる」です。このページでは、その理由を比較表で説明します。
結論
- 家族信託は財産管理の仕組みです。信託した財産を、受託者が契約の範囲で売る・貸す・建て替えることができます。
- 任意後見・法定後見は、財産管理に加えて身の回りの契約(介護・施設入所・入院など)ができます。家族信託ではこれができません。
- 法定後見の下では、ご本人の財産を守ることが最優先となり、居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要です(民法 第859条の3)。
- そのため「財産は家族信託、身の回りの契約は任意後見」と役割を分けるのが典型的な組み合わせです。
比較表
| 比較項目 | 家族信託 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|---|
| 効力が生じる時 | 契約を結んだ時 | 任意後見監督人が選任された時 | 家庭裁判所の審判の確定 |
| 管理する人を選ぶ人 | ご本人(受託者) | ご本人(任意後見人) | 家庭裁判所 |
| 対象 | 信託した財産だけ | 代理権目録に書いた事務 | 原則として財産全般 |
| 不動産の売却・建替え | 信託の目的と契約の範囲で受託者が判断 | 代理権の範囲で可能。ご本人の財産を守る観点からの制約を受ける | 居住用は家庭裁判所の許可が必要 |
| 相続税対策の贈与・運用 | 信託の目的次第(税理士と設計) | ご本人の利益にならない行為は難しい | 原則として認められない |
| 介護・施設入所の契約 | できない | できる | できる |
| 監督 | 原則なし(信託監督人などを置ける) | 任意後見監督人 | 家庭裁判所 |
| 亡くなった後の財産の行き先 | 信託した財産は契約で決められる(受益者連続も可) | 決められない | 決められない |
法定後見の下で財産がどう扱われるか
東京家庭裁判所の成年後見人向けハンドブックは、ご本人の財産をその配偶者や子・孫などに贈与することは、税法上の優遇措置があっても原則として認められず、相続税対策を目的とする贈与も同様であるとしています。株式や投資信託など元本保証のない運用も避けるよう求めています。
親が認知症になってから法定後見を使うと、「相続税対策として予定していた建替えや贈与」は進められなくなるのが通常です。こうした計画がある場合は、判断能力があるうちに家族信託を検討します。
家族信託だけでは足りない理由
家族信託の受託者は、受益者に代わって介護サービスや療養看護の契約を結ぶことはできません。親が施設に入るときの入所契約、介護保険の手続き、入院の手続きなどは、任意後見人(または法定後見人)の役割です。
また、年金は受給者本人の口座にしか振り込まれないため、年金の受取口座を信託財産にすることはできません。年金口座の管理も任意後見で備えます。
典型的な組み合わせ
| ご家族の状況 | 組み合わせ |
|---|---|
| 自宅と預貯金だけで、売却の予定がない | 任意後見(移行型)+公正証書遺言 |
| 施設に入ったら実家を売りたい | 家族信託(実家と一部の預金)+任意後見+遺言 |
| 賃貸アパートを経営している | 家族信託(賃貸不動産)+任意後見+遺言 |
| 夫の死後は妻、妻の死後は長男に継がせたい | 受益者連続型の家族信託+任意後見+遺言 |
家族信託の受託者と任意後見人を同じお子さまにすると、財産の管理と身の回りの手続きを一人で見渡せます。一方で、一人に権限が集中するため、報告の仕組みを両方の契約に入れておくことをおすすめしています。
関連ページ
※どの組み合わせがよいかは、財産の内容とご家族の考え方によって変わります。
行政書士あおば行政法務事務所 齋藤光宏