家族信託 / 活用例
家族信託の活用例—実家の売却・賃貸不動産・二次相続・親亡き後
家族信託がよく使われる4つの場面を、信託の設計例とともに紹介します。施設入所後の実家の売却、賃貸アパートの管理の継続、夫婦の次の世代までの承継(受益者連続型信託)、障害のある子の親亡き後の生活費。それぞれの注意点も、横浜の行政書士が具体的に説明します。
家族信託は「こういうときに使う」という場面がはっきりしている仕組みです。反対に、使う場面がなければ、任意後見と遺言で十分なことも多くあります。ここでは、家族信託がよく検討される4つの場面と、それぞれの設計の考え方を紹介します。
結論
- 家族信託が特に役立つのは、不動産を売る・貸す・建て替える可能性がある場合と、自分の次の世代以降の承継先まで決めたい場合です。
- どの例でも、身の回りの契約のための任意後見と、信託しない財産のための遺言を併せて準備します。
例1 施設に入った後、実家を売って費用に充てたい
ご相談の状況 80代の母がひとりで実家に暮らしている。将来施設に入ることになったら、実家を売って入居費用に充てたい。
信託の設計例
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 委託者・受益者 | 母 |
| 受託者 | 長女 |
| 信託財産 | 実家の土地・建物、当面の管理費用としての金銭 |
| 受託者の権限 | 実家の管理・修繕、売却、売却代金の管理 |
| 終了と帰属 | 母の死亡で終了し、残った財産は遺言や契約で定めた帰属権利者へ |
ポイント 母が認知症になった後でも、受託者の長女が売主となって実家を売却できます。売却代金は信託財産として受託者が管理し、母の生活費や施設費用に充てます。施設への入所契約そのものは受託者の権限ではできないため、任意後見契約も併せて結んでおきます。
例2 賃貸アパートの経営を子に引き継ぎたい
ご相談の状況 父が賃貸アパートを経営している。入居者との契約更新や修繕の判断が負担になってきた。
ポイント 受託者の長男が、入居者との賃貸借契約、管理会社との契約、修繕を行います。賃料は信託口口座で管理し、父の生活費に充てます。
注意したいのは税務です。信託したアパートで生じた不動産所得の損失は、他の所得と損益通算できません(租税特別措置法 第41条の4の2)。大規模修繕や建替えのための借入れを見込む場合は、借入れを受託者が行えるか、金融機関に事前に相談しておく必要があります。
例3 夫婦の一方が亡くなった後、次の承継先まで決めておきたい
ご相談の状況 夫名義の自宅と預金がある。自分の死後は妻が住み続け、妻が亡くなった後は、妻の親族ではなく自分の長男に継がせたい。
信託の設計例 最初の受益者を夫、夫の死後の受益者を妻、妻の死後の帰属権利者を長男とします。このように受益者が順に移る信託は「受益者連続型信託」と呼ばれ、信託法 第91条に定めがあります。同条により、信託の時から30年を経過した時以後に受益権を取得した受益者が死亡するまでなどの期間、効力が続きます。
ポイント 遺言では、自分の財産を誰に継がせるかは決められても、その人が亡くなった後の行き先までは決められません。家族信託なら二代先まで設計できます。ただし、受益者が変わるたびに相続税の課税関係が生じ、遺留分への配慮も必要です。
例4 障害のあるお子さまの生活を、親亡き後も支えたい
ご相談の状況 知的障害のある次男がいる。自分たちが亡くなった後も、次男が生活に困らないようにしたい。
信託の設計例 親を委託者、長男を受託者とし、親の生前は親、親の死後は次男を受益者として、受託者から次男に定期的に生活費を渡す設計が考えられます。受託者を見守る信託監督人(信託法 第131条以下)や、次男に代わって受益者の権利を行使する受益者代理人(同法 第138条以下)を置くこともできます。
ポイント 家族信託で渡せるのはお金の面の支えだけです。次男の身の回りの契約や福祉サービスの手続きには、法定後見の利用や福祉制度との組み合わせが必要です。受益者を親以外にする部分には贈与税・相続税の課税関係が生じるため(相続税法 第9条の2)、税理士の試算が欠かせません。個別事情に応じて慎重に設計します。
関連ページ
※設計例は説明のために簡略化しています。実際の設計は、財産・ご家族の状況・税務の影響を確認したうえで決めます。
行政書士あおば行政法務事務所 齋藤光宏