相続・遺言 / zaisan
相続財産の調査—所有不動産記録証明制度(令和8年2月施行)の活用
相続財産(不動産・預貯金・証券・保険・負債)の調査方法を、令和8年2月2日施行の所有不動産記録証明制度、名寄帳、信用情報機関照会まで含めて整理します。横浜市の行政書士が実務目線でご説明します。
相続財産の調査は、戸籍収集と並行して進める重要な作業です。調査が十分でないと、遺産分割協議書の記載漏れ、相続税の計算ミス、後日の負債判明によるトラブルに繋がります。令和8年(2026年)2月2日に始まった所有不動産記録証明制度は、この作業を大きく変えました。このページは、財産種別ごとの調査手段と、新制度を組み込んだ調査の進め方を整理します。
結論
- 令和8年2月2日から、法務局で被相続人名義の登記済不動産を全国一覧で照会できる所有不動産記録証明制度が始まりました。
- 未登記建物は所有不動産記録証明でも拾えないため、市区町村の名寄帳・固定資産税納税通知書との突合が必要です。
- 預貯金・証券は金融機関ごとに書式と運用が違うため、機関別のマトリクスで管理します。
- 信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行協会)の3系統に並行照会しないと、負債の見落としが起きます。
- 具体的な税務評価は税理士の領域です。当事務所は固定資産評価額の共有までで、評価判断は税理士にお繋ぎします。
調査のカテゴリと全体像
相続財産は「プラス財産」と「マイナス財産」に分けて、以下のカテゴリごとに調査します。負債調査はプラス財産の調査と並行して進めるのがポイントで、限定承認や相続放棄の検討時期(3か月以内)に間に合わせる必要があります。
| カテゴリ | 主な調査手段 |
|---|---|
| 不動産 | 所有不動産記録証明、登記事項証明、名寄帳、評価証明 |
| 預貯金 | 各金融機関への死亡連絡→残高証明請求 |
| 証券・投資信託 | 証券会社への照会・残高証明 |
| 生命保険・共済 | 保険証券、生命保険協会の契約照会制度 |
| 自動車 | 車検証、ディーラー照会 |
| 非上場株式 | 発行会社への照会、定款、株主名簿 |
| 借入金 | 通帳・郵便物、信用情報機関開示 |
| 保証債務 | 契約書、通帳の出金履歴、信用情報 |
不動産の調査—所有不動産記録証明制度を軸に
4段階の調査
- 所在の把握:どこに不動産があるか
- 権利関係の把握:所有者・抵当権等
- 評価の把握:固定資産評価額等
- 未登記・農地等の特殊性の把握:登記外資産の発見
所有不動産記録証明制度(令和8年2月2日施行)
不動産登記法の改正により、相続人その他の一般承継人は、被相続人名義で登記簿上所有者として記録されている不動産を、法務局で一覧的に証明してもらえる制度が始まりました。
役に立つ場面
- 登記済み不動産の見落としを防ぐ
- 他都道府県に飛び地の不動産がある場合でも発見できる
- 相続登記の入口資料として実務価値が高い
制度の限界
- 未登記建物は拾えません
- 被相続人が実質的に所有していても、登記名義が別人のものは拾えません
- 固定資産税資料との突合は依然として不可欠です
名寄帳との使い分け
所有不動産記録証明は全国横断で登記済みの不動産のみ、名寄帳は市区町村単位で未登記も含む資料です。両者を併用するのが基本です。市区町村ごとに名寄帳を取得し、さらに所有不動産記録証明で他都道府県の登記済不動産を確認します。
行政書士の関与範囲
不動産の所在の特定・資料収集・遺産分割協議書の記載は行政書士が担当します。登記申請そのものは司法書士の独占業務です。相続登記義務化(令和6年4月施行、3年以内の義務)の関係で、不動産があれば初回面談の時点で司法書士をご紹介するのが当事務所の方針です。
預貯金の調査
基本フロー
- 各金融機関の相続窓口へ死亡連絡
- 口座有無・残高証明の事前相談
- 各行所定の書式の取得・提出
- 戸籍等・印鑑証明書の添付
- 証明書の受領
主要行の運用差
金融機関ごとに必要書類と手順が微妙に違います。
| 金融機関 | 特徴 | 戸籍・一覧図の扱い | 印鑑証明の期限 |
|---|---|---|---|
| 三菱UFJ銀行 | A〜Dのケース分岐方式 | 一覧図原本で戸籍提出原則不要 | — |
| 三井住友銀行 | 死亡連絡後、案内→確認書類→相続書類の二段階郵送 | 出生から死亡まで、一覧図は作成日から1年以内 | 全員、発行後6か月以内 |
| みずほ銀行 | ケース別表示が明確 | 16歳の誕生日以降死亡時までの連続戸籍または一覧図 | 6か月以内(融資取引があると3か月以内) |
| ゆうちょ銀行 | Web案内はガイド機能中心 | 一覧図原本の利用可 | 代表相続人からの委任状で代理請求可 |
仮払制度(民法第909条の2)
葬儀費用や当面の生活費のため、分割成立前でも一定額の払戻しができます。
- 金額:預金額 × 1/3 × 法定相続分
- 上限:1金融機関ごとに150万円
この制度は、平成30年の民法改正で導入されたもので、仮払いに遺産分割協議書は不要です。ご依頼者様からの「葬儀費用をどう出すか」というご質問には、この制度を併せてご説明します。
証券・生命保険の調査
証券会社
証券会社は銀行以上に所定書式を重視する傾向があります。相続人側の振替先口座の開設が必要な会社もあります。初動では、相続発生の連絡先・必要書類一覧・残高証明書等作成依頼書の有無・相続人側口座の開設要否を確認します。
生命保険契約照会制度
契約内容が分からない場合、生命保険協会の契約照会制度を利用します。協会加盟の生命保険会社約40社が対象で、法定相続人が利用できます。任意代理人として行政書士も必要書類を付けて申請可能です。費用は1回あたり3,000円前後とされていますが、最新は協会公式でご確認ください。
受取人指定の有無
生命保険金の扱いは、受取人指定で大きく変わります。
- 受取人が特定の相続人に指定されている場合:その方の固有の権利で、遺産分割の対象外(最高裁平成16年決定)
- 受取人が「相続人」と包括指定:法定相続分で分配されるのが実務
- 受取人が被相続人本人:相続財産
受取人指定がある場合、相続税の非課税枠「500万円×法定相続人数」が使えます。具体的な税額計算は税理士の領域です。
負債の調査—3系統並行の原則
信用情報機関の3系統
| 機関 | 主な対象 |
|---|---|
| CIC | 信販・クレジット系(クレジットカード・ショッピングローン等) |
| JICC | 消費者金融系、一部銀行 |
| 全国銀行個人信用情報センター(全銀協) | 銀行借入、住宅ローン等 |
3系統は相互に情報を持ち合っていません。1機関のみ照会して負債を見落とすケースが実務で多く、並行照会が鉄則です。機関ごとに開示の要件が違い、法定相続情報一覧図の原本があれば戸籍省略が効く機関もあります。法定相続人本人の郵送申請が基本で、任意代理人として行政書士が申請可能な範囲は機関ごとに確認が必要です。
信用情報で拾えない負債
以下は信用情報機関では拾えないため、別途の調査が必要です。
- 税金の滞納(市区町村税・所得税等)
- 個人間借入
- 連帯保証・身元保証等の保証債務
- 事業上の未払(仕入債務・賃料等)
通帳の取引履歴、郵便物・督促状、確定申告書控え、不動産登記の乙区(抵当権・根抵当権)、連帯保証契約書などを補完的に確認します。限定承認や相続放棄を検討する案件では、これらの負債調査の徹底が重要です。
自動車・農地・非上場株式の調査
- 自動車:車検証・自動車保険証券・ディーラー点検記録で把握します。100万円以下の車両は簡易ルート(遺産分割協議成立申立書)が使えます。
- 農地:相続登記とは別に、農業委員会への農地相続届(農地法第3条の3、10か月以内)が必要です。
- 非上場株式:定款の譲渡制限条項、株主名簿、株券発行会社かどうか、被相続人が経営者本人かを確認します。評価は税理士または公認会計士の領域です。事業承継税制の計画提出期限(法人版は令和9年9月30日)に注意します。
業際の注意
- 不動産の税務評価:路線価・倍率方式・小規模宅地等の特例判定は税理士の領域です。当事務所は固定資産評価額の情報共有までとします。
- 非上場株式の評価:類似業種比準方式・純資産価額方式は税理士の領域です。
- 信用情報機関の代理申請:機関ごとに要件が異なります。法定相続人本人の郵送申請が基本です。
財産目録の作成
調査結果は財産目録にまとめて、遺産分割協議の材料にします。不動産は所在・地番・地目・地積・評価額、預貯金は金融機関名・支店名・口座番号・残高(死亡日時点)、有価証券は証券会社名・口座番号・銘柄・株数、負債は借入先・残高・担保の有無、といった単位で記載します。基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)との対比で、相続税申告の要否の目安を示します。
あおば事務所の進め方
当事務所では、初回面談でお手元の固定資産税納税通知書・通帳・保険証券を一通り拝見し、所有不動産記録証明、名寄帳、金融機関別の必要書類リストを作成します。信用情報機関3系統の並行照会を、法定相続情報一覧図の取得と同じタイミングで段取りします。基礎控除を超える見込みがあれば、財産目録の初版段階で税理士をご紹介し、評価の精緻化と申告準備を連携で進めます。