相続・遺言 / igon
自筆証書遺言—法務局保管制度(令和2年施行)と方式不備の回避
自筆証書遺言の方式要件、2019年改正の財産目録別紙化、2020年7月10日施行の法務局保管制度、公正証書との使い分けを横浜市の行政書士が整理します。
自筆証書遺言は、ご自身の手で書ける手軽さがある一方で、方式不備で無効になるリスクがあります。2020年7月10日に施行された法務局保管制度は、保管先の不安と検認手続の負担を解消しました。このページは、方式要件・保管制度・公正証書との使い分けを整理します。
結論
- 自筆証書遺言は、本文全文・日付・氏名の自書と押印で成立します(民法第968条)。
- 2019年1月13日以降、財産目録は自書不要となりました。ただし全ページに署名押印が必要です。
- 2020年7月10日施行の法務局保管制度により、法務局で原本50年・画像150年の保管が可能になりました。
- 保管制度を利用すれば、死後の家庭裁判所検認が不要です。
- 保管申請は本人出頭必須で、代理人による申請はできません。
背景と制度の目的
自筆証書遺言は、費用をかけずに本人だけで作成できる最も手軽な方式です。ただし、方式不備で無効になる、紛失・改ざんされる、死後に家族が発見できない、というリスクが伝統的に指摘されてきました。
2018年の相続法改正は、このリスクを減らすために2つの手当てをしました。一つは財産目録の別紙化(自書負担の軽減)、もう一つは法務局保管制度の創設です。保管制度は、自筆証書遺言の利便性を維持しつつ、公正証書に近い保管の確実性と検認不要の扱いを実現する仕組みです。
方式要件(民法第968条)
| 項目 | 要件 | 例外・緩和 |
|---|---|---|
| 全文 | 遺言者が自書 | 財産目録は自書不要(PC作成・通帳コピー等可、2019年1月13日改正) |
| 日付 | 遺言者が自書(年月日を特定) | 「○○年○月吉日」は無効(最判昭和54年5月31日) |
| 氏名 | 遺言者が自書 | 通称・雅号でも本人特定可能なら可 |
| 押印 | 必須 | 指印で足りる(最判平成元年2月16日) |
| 加除訂正 | 変更場所の指示・付記の署名・変更場所の押印 | 明白な誤記の訂正は方式違背でも効力に影響しない判例あり |
財産目録の別紙化(2019年改正)
PC作成、登記事項証明書のコピー、通帳コピー等を目録として添付できます。ただし偽造防止のため、目録の全ページに署名と押印が必要です。本文(財産目録以外)は全文自書が必要です。
共同遺言の禁止(民法第975条)
2人以上の者が同一の証書で遺言をすることはできません。夫婦連名での1通の遺言書は無効です。夫婦でも必ず各自別々に作成します。
法務局保管制度(2020年7月10日施行)
制度のメリット
| メリット | 詳細 |
|---|---|
| 外形チェック | 法務局が様式要件を確認(内容の有効性は保証されない点に注意) |
| 長期保管 | 原本50年、画像データ150年 |
| 紛失・改ざん防止 | 自宅保管リスクを解消 |
| 検認不要 | 「遺言書情報証明書」が検認済に代わる |
| 通知機能 | 関係遺言書保管通知、指定者通知(最大3名) |
手数料
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 保管申請 | 3,900円 |
| 遺言書情報証明書の交付(相続人等) | 1通 1,400円 |
| 遺言書保管事実証明書 | 1通 800円 |
| 閲覧(モニター) | 1回 1,400円 |
| 閲覧(原本) | 1回 1,700円 |
| 変更届出 | 無料 |
| 撤回書 | 無料 |
保管制度の様式要件(重要)
- A4サイズ
- 余白(上5mm以上、下10mm以上、左20mm以上、右5mm以上)
- 片面のみ使用
- 各ページにページ番号(例: 1/3, 2/3, 3/3)
- ホチキス等で綴じない(スキャンのため)
- 文字が判読可能(消えるペン・鉛筆不可)
様式要件を満たさないと法務局で受理されません。A4・片面・余白・ページ番号の4点は必ずご確認ください。
保管申請の流れ
- 遺言者本人が法務局に予約
- 申請書・遺言書・添付書類を持参
- 遺言書(封をしない状態)
- 申請書(法務局様式)
- 本人確認書類(顔写真付き)
- 本籍地入り住民票(作成後3か月以内)
- 手数料3,900円(収入印紙)
- 本人出頭・審査(本人性確認、様式チェック)
- 保管証の交付(保管番号が付与される)
代理申請は認められません。本人が法務局へ出頭する必要があります。行政書士が同行することは可能です。
通知機能
- 関係遺言書保管通知: 死亡後、相続人等が「遺言書情報証明書」の交付を受けた場合、他の関係者に保管の事実が通知されます
- 指定者通知: 遺言者があらかじめ指定した者(最大3名)に、法務局が遺言者の死亡を知った時点で通知が届きます
家族に「遺言書がある事実」を確実に伝える設計として、指定者通知の活用をお勧めします。
公正証書遺言との比較
| 比較項目 | 自筆証書(保管制度利用) | 公正証書 |
|---|---|---|
| 法的確実性(形式) | 法務局が外形チェック | 公証人関与で高い |
| 意思能力の担保 | 第三者が担保しない | 公証人・証人が担保 |
| 作成費用 | 3,900円 | 財産額による(数万〜数十万) |
| 作成の手間 | 全文自筆・本人出頭 | 書類収集・公証役場調整 |
| 証人 | 不要 | 2名必須 |
| 検認 | 不要 | 不要 |
| 紛失・改ざんリスク | 極小 | 極小 |
| 争われた時の強さ | 中(筆跡鑑定等で争う余地) | 強(公文書) |
方式選択の判断フロー
紛争リスクが高い(再婚・事業承継・相続人間不仲等)場合は、公正証書を強く推奨します。判断能力に疑義があるまたは高齢の場合も、公正証書で意思能力を公証人に担保してもらうほうが安全です。財産が多額で登記・金融手続が多数見込まれる場合も、公正証書の執行がスムーズです。
それ以外で、紛争リスクが低く判断能力も明確な場合は、自筆証書+保管制度で足ります。
自筆証書で失敗しやすい点
| パターン | 結果 | 対策 |
|---|---|---|
| 日付「吉日」「令和○年○月」のみ | 無効 | 「令和○年○月○日」と年月日を特定 |
| ワープロで全文作成 | 無効(目録以外は自書必須) | 本文は必ず自筆 |
| 押印忘れ | 無効 | 署名直後に押印をセットで |
| 訂正方式違反(塗りつぶし・二重線のみ) | 訂正無効 | 訂正箇所の指示→付記→署名→押印 |
| 共同遺言(夫婦連名) | 無効 | 各自別々に作成 |
| 目録に署名押印なし | 目録部分無効 | 毎ページに署名押印 |
| 保管制度で様式不適合 | 受理されず | A4・余白・片面・ページ番号・綴じない |
死後の扱い
| 保管方法 | 死後の手続 | 備考 |
|---|---|---|
| 自宅保管 | 家庭裁判所の検認必須 | 開封前に検認すること |
| 法務局保管 | 検認不要 | 遺言書情報証明書で執行へ |
保管制度を使うかどうかで、死後の相続人の事務負担が大きく変わります。当事務所では、自宅保管の事情が特にない限り、保管制度の利用をご提案します。
業際の注意
自筆証書遺言の起案支援は行政書士の業務範囲です。保管申請は本人出頭が必須のため、当事務所は同行して手続をサポートします。方式違反が疑われる既存遺言のチェックもお引き受けします。ただし、遺言無効確認訴訟の代理は弁護士の領域です。
あおば事務所の対応
自筆証書遺言のご相談では、まず公正証書との使い分けをご一緒に検討します。自筆証書をお選びの場合は、方式要件を満たす文例を提供し、財産目録の別紙化、保管制度の様式要件(A4・片面・余白・ページ番号)を具体的にご説明します。
法務局への保管申請は、横浜地方法務局本局・川崎支局等の窓口運用を踏まえて予約から同行までサポートします。持参書類の不備で受理されないケースを防ぐため、事前チェックを当事務所で実施してから法務局に向かいます。