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あおば行政法務事務所

相続・遺言 / igon

遺言能力の判定—認知症・高齢者の遺言有効性

遺言能力とは何か、認知症や高齢による判断能力の低下があるときの受任判断、医師診断書の取得、不当影響リスクの管理を、横浜市の行政書士が整理します。

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高齢のご親族の遺言書作成を検討される場面では、「今のうちに作れるだろうか」というご心配をよくいただきます。このページは、遺言能力とは何か、どのような状態であれば作成が可能かを整理します。

結論

  • 遺言能力の中身は、遺言の内容を理解し、その法的効果を判断できる事理弁識能力です。
  • 民法上、15歳に達していれば遺言は可能です(民法第961条)。
  • 認知症の診断があっても、軽度であれば公正証書遺言が可能な場合があります。
  • 成年被後見人は、事理弁識能力を一時回復した時、医師2名以上の立会いがあれば遺言できます(民法第973条)。
  • 判断能力に疑義がある場合は、公正証書の採用と医師診断書の取得を強く推奨します。

背景と制度の目的

民法は、遺言者の最終意思の尊重と、意思能力なき者への不当な遺言の防止という2つの要請のバランスを取っています。年齢要件は15歳と未成年者の一般的能力より低く設定されていますが、その一方で、事理弁識能力(自分の行為の意味と効果を理解する能力)は個別に要求されます。

判例・通説は、遺言の内容・動機・遺言者の精神状態・家族関係等を総合考慮して判断するという立場です(最判平成30年3月27日)。一律の数値基準はなく、面談での会話成立、配分理由の説明、家族構成の理解などを個別に評価します。

遺言能力の法的基礎

年齢要件(民法第961条)

15歳に達した者は遺言をすることができます。未成年者でも法定代理人の同意は不要です。ただし実務では、未成年の遺言はごく稀です。

意思能力(通説・判例)

民法に明文規定はありませんが、判例・通説は事理弁識能力を要求します。遺言時に能力を欠いた遺言は無効です(民法第963条)。

成年被後見人(民法第973条)

成年被後見人が事理弁識能力を一時回復した時に限り、医師2名以上の立会いのもとで遺言が可能です。医師は遺言書に「心神喪失の状況になかった」旨を付記し、署名押印します。

被保佐人・被補助人

成年被後見人のような特別規定はなく、意思能力があれば有効に遺言できます。

判断能力に疑義がある場合の対応

受任可否の判断フロー

面談で以下を順に確認します。

  1. 会話が成立するか(質問への回答が意味ある内容か)
  2. 家族関係・財産の概要を本人が説明できるか
  3. 遺言の内容(誰に何を)を本人の言葉で語れるか
  4. 外部からの圧力・不当影響の兆候がないか

すべて明確であれば通常手続で進めます。一部曖昧であれば、公正証書化と医師診断書取得を前提に進めます。明確に不足する場合は受任を見送り、成年後見制度のご案内に切り替えます。

状況別の対応

状況 対応
軽度認知症の診断あり 長谷川式・MMSE等の直近結果を確認、公正証書一択
会話が成立しない 受任不可
家族が同席して本人に代わり答える 単独面談の場を必ず設定
薬剤の影響で意識混濁 意識明瞭な時間帯に再面談
聴覚・言語機能障害 民法第969条の2の特則で公正証書作成可(手話通訳等)
成年被後見人 事理弁識能力回復時+医師2名立会で公正証書
入院中・自宅療養 公証人の出張作成を手配

面談時の意思能力確認項目

見当識

  • 今日の日付はわかりますか
  • 今の季節は
  • 今、どこにいますか

記憶・計算

  • 家族構成を教えてください
  • 主な財産は何ですか(不動産・預貯金・株式等)

判断・理解

  • なぜ遺言を作ろうと思いましたか
  • 誰にどの財産を渡したいですか、それはなぜですか
  • 遺言を作ると、ご自身の死後に何が起きますか
  • 遺言はいつでも書き直せることをご存じですか

自律・影響

  • 誰から遺言を勧められましたか
  • ご自身の希望とご家族の希望は一致していますか

医師診断書の取得

どんな時に取るか

  • 認知症の診断歴がある
  • 概ね85歳以上で、判断に微妙な部分がある
  • 長期入院・施設入所中
  • 親族間に紛争の兆しがある

依頼内容

主治医宛に「遺言能力に関する所見」を依頼します。長谷川式・MMSE等の最新スコアの記載があると望ましく、さらに「遺言の意味を理解し、その法的効果を判断する能力を有する」旨の記載があれば、後日の争いに強い資料になります。

タイミング

遺言作成日と近接した日付で取得します。前後2週間以内が目安です。作成日から日が離れた診断書は、「作成日当時の能力」の証拠としては弱くなります。

不当影響(Undue Influence)のリスク管理

特定の親族のみが遺言の内容を決めていたり、遺言者が家族の一人としか本心を語らなかったりする場合、不当影響を疑います。以下が兆候です。

  • 遺言内容が同居親族に極端に有利
  • 遺言者が孤立している(他の親族と長期疎遠)
  • 遺言内容の理由を本人が明確に説明できない
  • 介護を受けている者からの提案

対策として、単独面談(他の親族は退室)、複数回の面談(時間を空ける)、付言事項での動機の言語化、医師診断書の取得、公正証書の採用を組み合わせます。

よくある誤解・不備

「認知症=遺言不可」と決めつける

認知症にも軽重があります。軽度で会話が成立し、配分理由を本人の言葉で語れる段階であれば、公正証書遺言が可能な場合があります。医師と相談しながら判断します。

家族代理での依頼を受けてしまう

遺言は本人の単独行為です。本人からの依頼と、本人の面談を経ずに遺言書を作ることはできません。家族からのご相談でも、最終的には本人との単独面談を必須にしています。

意思能力確認の記録を残さない

後日、遺言無効が主張された場合に、面談時の様子を示す記録がないと反証できません。当事務所は面談記録と、ご本人の同意を得た上での録音を運用しています。

成年被後見人の遺言で医師立会いを省略する

民法第973条は医師2名以上の立会いを要件としており、これを欠くと無効です。医師確保が難しい場合、遺言ではなく成年後見制度の活用を検討します。

業際の注意

意思能力の最終判断は裁判所の職分であり、行政書士は面談で暫定判断をし、記録を残すまでが業務範囲です。医学的診断は医師、遺言無効確認訴訟の代理は弁護士の領域です。紛争が顕在化したら、遺言無効確認訴訟への対応は弁護士に連携します。

あおば事務所の対応

当事務所では、高齢者や判断能力に疑義がある方の遺言について、面談記録の徹底、医師診断書の取得案内、公正証書の推奨、録音・録画の同意取得という4点を標準運用にしています。

面談は必ず単独で実施し、家族の同席は聞き取りの後段でのみ認めます。複数回の面談で意思の一貫性を確認し、付言事項で動機を遺言者ご自身の言葉で残すことで、後日の争いに対する事実上の防御を設計します。

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