医療法人・医療機関 / shinryojo
診療所廃止届の実務—保険医療機関の廃止届との連携
診療所の廃止届・休止届・再開届の提出期限、保健所と厚生局の二重手続き、廃止後のカルテ保存義務(5年・3年・20年)を、実務で失念されやすい論点を中心に横浜市の行政書士が整理します。
「廃業することにしました。何を出せばよいですか」——院長の引退や体調不良、代替わりのタイミングで受ける相談です。廃止届は形式的な書類に見えますが、保健所・厚生局・各種公費指定の3系統に手続きが分かれ、廃止後もカルテ保存義務が続きます。このページは、閉院を検討される院長先生に必要な手続きの全体像を整理します。
結論
- 廃止届は廃止の事実発生から10日以内に提出します(医療法第8条の2)。
- 保健所への廃止届と別に、厚生局への保険医療機関廃止届も必要です。
- 結核指定・難病指定・生活保護指定など、各公費指定も個別に辞退届が要ります。
- カルテの保存義務は5年間(一連の診療完結日から)です。慢性疾患の患者は完結が先延ばしになります。
- 特定生物由来製品の使用記録がある場合、20年間の保存が必要です。
廃止届の全体像
保健所への廃止届
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法令 | 医療法第8条の2 |
| 提出期限 | 廃止の事実発生から10日以内 |
| 提出先 | 管轄保健所(横浜市は医療安全課、川崎市は区の衛生課、相模原市は地域保健課) |
| 法的効果 | 医療法上の医療機関としての法的存在が消滅 |
保健所の廃止届受理により、診療所としての法的地位が消滅します。以降は医療機関ではなくなるため、看板の撤去・診療所の表示削除も速やかに行ってください。
厚生局への保険医療機関廃止届
保健所への廃止届とは別に、厚生局への保険医療機関廃止届が必須です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法令 | 健康保険法に基づく |
| 提出先 | 管轄の地方厚生局事務所(神奈川→関東信越厚生局神奈川事務所) |
| 様式 | 「保険医療機関・保険薬局・生活保護法指定医療機関 廃止・休止・再開届」 |
| 手数料 | 無料 |
| 提出方法 | 窓口持参または郵送 |
| 記載上の注意 | 医療機関コード、正確な開設者名、廃止年月日と理由を正確に記入 |
保健所への廃止届と厚生局への廃止届は、連動して同時に処理する必要があります。厚生局への届出を怠ると、存在しない医療機関に対する行政上の混乱が継続します。
その他の公費指定の廃止
廃止に際しては、以下の各指定についても辞退届・廃止届が必要です。
| 指定の種類 | 届出先 |
|---|---|
| 生活保護法指定医療機関 | 都道府県・政令市の福祉事務所 |
| 結核指定医療機関 | 管轄保健所(指定書の原本返納が必要) |
| 難病指定医療機関 | 都道府県 |
| 労災指定医療機関 | 都道府県労働局(社労士の領域) |
結核指定医療機関の指定書は原本返納が求められます。保管していた指定書を廃棄しないよう注意してください。
休止届と再開届
休止届
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出期限 | 休止の事実発生から10日以内 |
| 提出先 | 管轄保健所 |
| 効果 | 医療法上の診療所としての地位は維持(再開が前提) |
| 保険指定 | 厚生局にも休止届の提出が必要 |
院長の長期入院、海外研修、後継者への引継期間など、一定期間の休診が見込まれる場合に提出します。
再開届
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出期限 | 再開後10日以内 |
| 提出先 | 管轄保健所 |
| 保険指定 | 厚生局に再開届を提出。保険診療の再開日に注意 |
保険診療の再開日と、厚生局の再開届受理日の整合を確認してください。再開届の遅延が保険診療の空白につながるケースがあります。
法人成りに伴う廃止・新規開設
個人事業を医療法人化する場合、個人事業の廃止と法人による新規開設を同日処理で行います。
【同日処理が原則】
[個人事業の廃止]
├→ 保健所:診療所廃止届
└→ 厚生局:保険医療機関廃止届
[法人による新規開設]
├→ 保健所:診療所開設許可申請 → 許可 → 開設届
└→ 厚生局:保険医療機関指定申請(遡及指定を申請)
遡及指定の要件を事前に厚生局と調整しなければ、保険診療に空白期間が生じます。厚生局への手続きは社労士の領域のため、連携体制が必須です。
個人クリニックの代替わり(親から子、第三者医師への譲渡)も、同じく廃止+新規開設の構造になります。管理者変更で済ませようとすると受理されないため、早い段階で手続き設計を行うことが必要です。
廃止後のカルテ保存義務
保存期間
| 記録の種類 | 保存期間 | 起算点 |
|---|---|---|
| 診療録(カルテ) | 5年間 | 「一連の診療が完結した日」から起算 |
| カルテ以外の帳簿・書類(処方箋の控え、手術記録、X線フィルム等) | 3年間 | ─ |
| 特定生物由来製品の使用記録 | 20年間 | 人血漿、ヒト免疫グロブリン等の使用がある場合 |
慢性疾患の注意点
高血圧・糖尿病・透析などで長年通院していた患者のカルテは、診療が「完結」するまで保存義務が継続します。最終来院日から5年ではなく、「一連の診療が完結した日」から5年という点にご注意ください。
廃止時に通院中の患者がいる場合は、転院先への引き継ぎと、保存義務の管理を並行する必要があります。
保存の方法
| 保存方法 | 要件 |
|---|---|
| 院内保管 | 開設者であった者(法人の場合は清算人等)の責任で保管 |
| 外部委託(倉庫業者) | 患者プライバシーの保護、開示請求への即応(見読性)の確保 |
| 電子化保存(スキャン) | e-文書法+「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠 |
電子化保存の厳格な要件
単にスキャンしてPDF化するだけでは法的証拠力を喪失します。以下が必要です。
- 電子署名:作業責任者による電子署名法適合の署名付与(真正性の担保)
- タイムスタンプ:正確な読み取り時刻の証明
- 運用管理規程:システム更新時のデータ互換性、バックアップ体制、紙媒体の破棄方法を明文化
- PDCAサイクル:策定→運用→監査→改善の継続的な実施
- 外部委託終了時の措置:データの完全破棄または安全な移行措置
電子化を検討される場合は、専門業者との連携が現実的です。
関連する別手続き
廃止に伴って発生する別手続きのうち、行政書士の業務範囲外となるものも多くあります。
- 保険医療機関廃止届:厚生局への提出。社労士の独占業務。
- 労災指定医療機関廃止:労働局への届出。社労士の領域。
- 税務申告(廃業届):税務署・都道府県税事務所。税理士の領域。
- 雇用している従業員の社会保険手続き:社労士の領域。
- 医療機器・医薬品の処分:リース会社・薬品卸業者との契約解除。
- 賃貸借契約の解除:不動産業者との協議。
あおば事務所では、保健所への廃止届と医療法人の清算に関する手続きを担い、税理士・社労士・不動産業者と連携して全体をコーディネートします。
よくある不備
保健所への廃止届は出したが、厚生局への届出を失念
保険指定が形式上残存します。保健所と厚生局の手続きは同時に進めてください。
結核指定等の公費指定の廃止手続きを失念
指定書の返納が遅延します。各指定ごとに廃止届・辞退届を用意してください。
カルテの保存期間の誤算
「最終来院日から5年」ではなく「診療完結日から5年」です。慢性疾患で通院中の患者がいる場合、完結日は患者ごとに異なります。
特定生物由来製品の使用記録を見落とし
人血漿・免疫グロブリン等を使用した患者の記録は20年保存義務があります。廃止前に該当の有無を確認してください。
電子化保存で電子署名・タイムスタンプを省略
法的証拠力を喪失します。電子化はガイドラインに完全準拠して行ってください。
法人成り時に廃止届と開設届の同日処理を怠る
保険診療の空白期間が発生します。廃止と新規開設のタイミング調整は、厚生局・社労士との事前協議が不可欠です。
あおば事務所の対応
廃業・休診のご相談では、最初に全体の手続き地図をご提示します。保健所・厚生局・各公費指定・税務・社会保険の5系統を整理し、それぞれの期限と担当者を明確にします。
廃止後のカルテ保存は長期にわたる義務です。院内保管・外部委託・電子化のいずれを選ぶかを、院長先生の事情に応じてご相談します。