医療法人・医療機関 / iryo-hojin
医療法人設立認可—持分あり・持分なし・基金拠出型の選び方
医療法人を設立するかを検討する院長先生向けに、持分なし法人と基金拠出型の違い、認定医療法人制度、法人化の損益分岐を横浜市の行政書士が整理します。
「そろそろ医療法人にすべきか」というご相談は、開業から5〜10年の院長先生から最も多くいただきます。このページは、法人類型の違いと、ご自身の診療所に合う設計を判断するための材料を整理します。
結論
- 現在、新規設立できる社団医療法人は持分なし医療法人のみです。2007年4月以降、持分あり法人の新設は不可となりました。
- 設立資金を「基金」として入れる基金拠出型医療法人は、持分なし法人の一形態です。基金は返還可能ですが利息は付きません。
- 既存の持分あり法人は、認定医療法人制度を使えば相続税・贈与税の納税猶予・免除を受けつつ持分なしへ移行できます。適用期限は令和11年(2029年)12月31日まで延長されました。
- 法人化の目的は「節税」だけではありません。事業承継のしやすさ・分院展開・家族への所得分散が主な動機です。
- 個人診療所では認められる所得分散の範囲が狭く、理事長報酬+家族役員報酬+退職金制度を組み合わせられる法人化のメリットは、年間所得2,000万円超から顕著になる傾向があります(税理士との試算が必要)。
医療法人とは
医療法人は、医療法第39条に基づき設立される特別法人です。病院・診療所・介護老人保健施設などの開設・運営を目的とし、設立には都道府県知事の認可が必要です。
最大の特徴は、剰余金の配当が禁止されていることです(医療法第54条)。株式会社のような配当は一切できず、残った利益は次年度の医療提供体制の充実に使うか、内部留保として積み上げるしかありません。この非営利性が、医療法人の基本原則です。
社団と財団
医療法人には「社団」と「財団」の2類型があります。
| 区分 | 社団医療法人 | 財団医療法人 |
|---|---|---|
| 設立の基礎 | 人(社員)の結合 | 財産の拠出 |
| 最高意思決定機関 | 社員総会 | 評議員会 |
| 議決権 | 1人1票 | 評議員による |
| 根本規則 | 定款 | 寄附行為 |
日本の医療法人の圧倒的多数は社団医療法人です。このページも以降は社団を前提に説明します。
持分の有無による区分(最重要)
医療法人を検討する院長先生に、まずご理解いただきたいのが「持分」の概念です。
持分あり医療法人(経過措置型)
2007年(平成19年)4月1日以降、新規設立は不可となりました。それ以前に設立された既存法人のみ存続が認められています。
持分あり法人では、社員が退社時に「持分払戻請求権」を、解散時に「残余財産分配請求権」を有します。問題は、長年の内部留保で持分評価額が膨張することです。最高裁平成22年4月8日判決は、退社時の払戻額を「時価純資産×出資割合」で算定すると判示しました。出資額を超える巨額の払戻し・相続税が発生し、法人の継続を脅かすリスクとして認識されています。
持分なし医療法人
現在、新規に設立できる社団医療法人はこちらだけです。退社時の持分払戻請求権はなく、解散時の残余財産は国・地方公共団体・他の持分なし医療法人等に帰属します。
「拠出したお金が戻ってこない」と聞くと抵抗を感じる先生もいらっしゃいますが、事業承継時の巨額の相続税リスクがないという大きな利点があります。
基金拠出型医療法人
持分なし法人の一形態で、設立時の資金調達手段として「基金」制度を利用するものです。
- 基金の返還は可能ですが、利息は付きません
- 返還額は拠出額が上限です
- 基金返還には定款の定め+社員総会の決議が必要です
運転資金や医療機器購入資金を理事長から借り入れる形で拠出し、将来資金繰りに余裕ができたときに返還する、という設計に向いています。
認定医療法人制度(持分なしへの移行促進)
既存の持分あり法人を、持分なしへ移行しやすくする国の制度です。
- 厚生労働省の認定を受けた法人が対象
- 出資持分にかかる相続税・贈与税の納税猶予
- 持分放棄完了時に納税猶予が免除に切り替わる
適用期限は当初2026年12月31日でしたが、令和11年(2029年)12月31日まで延長されました(令和8年度税制改正大綱)。
認定の主要要件
- 役員報酬の支給基準を定め、不当に高額でないこと
- 法人関係者・MS法人等への特別利益の供与がないこと
- 社会保険診療等による収入が全収入の主要部分を占めること
- 遊休資産の保有割合が一定以下であること
特別利益供与の有無は、MS法人との取引実態まで踏み込んで審査されます。税理士・行政書士の協働で、取引の適正性を事前に整えておく必要があります。
法人化のメリット・デメリット
メリット
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 税負担の軽減 | 法人税率(20〜30%台)+給与所得控除で、個人の最高55%より有利になるケースが多い |
| 所得分散 | 配偶者等の家族を役員にして報酬を分散できる |
| 事業承継の容易さ | 理事長変更のみで許認可維持(個人は廃止→再開設が必要) |
| 分院展開 | 法人でなければ複数の診療所は開設できない |
| 対外信用力 | 法人名義の契約、資金調達の幅が広がる |
| 退職金制度 | 理事長への退職金支給が可能(退職所得控除の適用) |
デメリット
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立コスト | 行政書士・司法書士・税理士への報酬、設立準備期間6ヶ月〜1年 |
| 社会保険の強制適用 | 法人は規模に関わらず強制適用。法定福利費が増加 |
| 配当禁止 | 利益を配当として還元できない |
| 行政報告の義務 | 毎年の決算届・資産総額変更登記、2年ごとの役員改選 |
| 解散時の制約 | 持分なし法人は残余財産を個人に分配できない |
特殊な法人類型
特定医療法人
租税特別措置法に基づき、国税庁長官の承認を受けた法人です。一定規模以上の事業、救急医療の提供、役員報酬の制限等を満たす必要があり、承認されれば法人税率の軽減措置を受けられます。
社会医療法人
救急医療・へき地医療・小児救急等の不採算医療を担う法人を対象に、2007年に創設された類型です。都道府県知事の認定を受けると、本来業務の所得が非課税となり、収益業務(駐車場経営等)も特例的に行えます。
出資額限度法人
持分あり法人の一形態で、定款で払戻し・残余財産分配を「払込出資額」を限度と規定する法人です。新設は不可。出資額を超える含み益が法人に残留するため、他の出資者に「みなし贈与課税」(相続税法第9条)が発生するリスクに注意が必要です。
行政書士・司法書士・税理士の役割分担
- 設立認可申請書の作成・提出代理 → 行政書士
- 設立登記の申請 → 司法書士(行政書士は行えません)
- 法人化のタックスプランニング → 税理士(行政書士は税務助言を行えません)
- 持分なし移行の認定申請 → 行政書士と税理士の協働
法人化の損益分岐や役員報酬の設計は、税理士の専門領域です。当事務所は、武蔵小杉の北澤税理士をはじめ、医療法人に精通した税理士と定期的に連携しています。初回相談の段階で、必要に応じて税理士をご紹介します。
あおば事務所の対応
初回相談では、直近2〜3年の決算書・確定申告書を拝見したうえで、「いま法人化することの経済合理性はあるか」「2〜3年待ったほうがよいケースか」を整理します。法人化ありきで進めず、個人診療所のままの方が合理的なご事情があれば、その判断もお伝えします。
武蔵小杉の小児科、東京都稲城市の内科など、神奈川・東京圏の医療法人設立・運営支援の経験を踏まえて、先生ごとの設計をご提案します。守秘義務の観点から個別の事例詳細は公開していませんが、相談の中でお伝えできる範囲でお話しします。